vol.7

お子さんの成長はもちろん
親御さんたちの成長も
手助けできる保育園を目指します

社会福祉法人 風の森 統括
野上美希(のがみ・みき)さん

「仕事大好き」だった私が陥った「子育ての孤独」

多くの女性にとって妊娠・出産という出来事は、ライフステージを一変させる一大事だろう。株式会社マイナビの人材紹介事業の立ち上げに参画し、同社では最短期間で部長職に昇進、「仕事が楽しくて、毎日、昼夜の境なく働いても苦ではなかった」という野上美希さんにとっても、第一子の妊娠という出来事は生活を大きく変化させる一因となった。


2014年、社会福祉法人風の森の初の認可保育園としてスタートした「Picoナーサリ久我山」の内観。開放感あふれるステンドグラスから放つ自然の採光は、心地よい空間を生み出している。

「自分自身、『こんなペースで一生働き続けるわけにはいかない』と薄々は思っていたところもありますので、妊娠をきっかけにこれまでの人生を見直し、次のステージに向かうべきだと思ったんですね。ところが、訪れた生活の変化は、想像以上に厳しいものでした。部下や上司に囲まれた会社という組織から外に出た途端、社会とのつながりをすべてリセットされてしまったような孤独に襲われたのです。地域とのつながりに救いを求めようとしても、その手段があるのかさえわからず、言葉のコミュニケーションがとれない我が子との1対1の関係に閉じこもって、ウツウツとした日々を過ごしていました」

そんな美希さんを救ったのは、「仕事」だった。出産と前後して、夫の実家が営む学校法人野上学園が創立60周年記念会館を建設し、その企画や運営を任せられる人材を探しており、美希さんに白刃の矢が立てられたのだ。

「そこで最初に手掛けたのが『子育てひろば PicoBaby』という、0歳から2歳までのお子さんをお持ちの親子向けのコミュニケーションスペースです。子育ての悩みを誰とも共有できず、一人で苦しみを抱えていた私が、まさに必要とする場でした。幸いなことに、オープンしてすぐに多くのお母さん、お子さんが集まるようになりました」

ときを同じくして起こった東日本大震災では、東北で起こった悲劇を我が身の出来事のように感じ、ふさぎ込む人も多かったというが、後日、「PicoBaby」の利用者から「この場所があったおかげで救われました」という声を聞いたという。
美希さんはこうして、やりがいのある仕事を見つけ、その後、新規事業を次々と立ち上げていく。

多くの親御さんの手助けをしたい。だけど、そこには大きな壁があった

学校法人野上学園は1935(昭和25)年、創業者の野上澄江氏が戦後の焼け野原に建っていた配給所の跡地で開園した久我山幼稚園を前身に持ち、昭和30年代から茶道による幼児教育を取り入れたり、昭和50代には幼稚園として全国でも早い段階での預かり保育(延長保育)をはじめるなど、時代のニーズに合わせて、幼児教育にこだわった幼稚園を運営してきた。


2016年に開園した2つ目の「Picoナーサリ久我山駅前」の近代的な建物。電車から見える高台の保育園

「私が運営に加わるようになった2010年代は、共働き夫婦が増えていった時期にあたり、それに伴って野上学園でも預かり保育を充実させる動きが始まっていました。当初、預かり保育を利用するお母さんは20人程度だったんですが、今や100人規模にまで増えたのは、この数年間で時代が急速に変化したことのあらわれでしょう。その後、今度は小学生になった子どもが学童に入れないことがあるのを知り、民間のアフタースクール(学童保育)を作りました(運営は株式会社野上アカデミー)」
学童保育を行うことで、受け入れる子どもの範囲を幼稚園児から小学生まで広げたからには、認可保育園を開設して0歳児以降の子を持つ親を支援しようという動きになるのは当然の流れだったが、このとき大きな壁となったのは、認可申請がなかなか通らないということだった。

そんな中、思いかげない追い風が吹いた。2013年1月、SNSで通じたママさんたちがベビーカーなどで子どもを引きつれ、杉並区役所の前で列をなしてデモ行進をしたのだ。デモは2日わたって行われ、2日目は雪が降ったこともあってマスコミがドラマチックに報道し、杉並「保育園一揆」というキーワードが注目を浴びた。
この運動はその後、他の地域にも波及するほどの広がりを見せたが、その渦中の杉並区で学校法人を営んできた野上学園は、これを受けて認可保育園を開設することになった。社会福祉法人風の森の誕生である。この年、幼稚園内に設置されたプレ保育「ピコらんど」の名にちなみ、翌年の2014年に開園した初の認可保育園は、「Picoナーサリ久我山」と名づけられた。

「幼稚園」と「保育園」の文化の違いに直面

4~5歳児が対象の「幼児茶道教育」。茶道の「静」の活動を通じて、気持ちを落ち着けて物事に取り組むことができるようになる。

2016年には2園目の「Picoナーサリ久我山駅前」を開園し、0~2歳児の受け皿をさらに広げ、2017年には杉並区立上高井戸保育園の民間の移管先に選ばれ、1~5歳児を受け入れる認可保育園「上高井戸保育園」を開園した。

「3歳から上の子を保育園で受け入れることになって、是非とも取り入れたかったのは、幼稚園で60年以上の実績のある幼児教育です。ただし、これまで保育の現場で働いてきたスタッフに、『教育』の重要性を理解してもらうのは、思っていた以上に難事業でした」
ここでいう幼児教育とは、具体的には英会話と体操(1~5歳児)、絵画(2~5歳児)、リトミック(0~5歳児)、茶道(4~5歳児)等の特別教育をはじめ、子どもの感性を引き出していく様々な日々の教育活動を指す。
「幼稚園と保育園の文化の違いを克服するのはむずかしく、焦らずに時間をかけて準備をすることにしました。その一方で、説明会や見学会などを通じて『自分の子どもを幼児教育をしっかり行ってくれる保育園に預けたい』という親御さんたちの声を聞くようになり、だんだんとその土壌が整ってきました」
2018年には都立和田堀公園内に0~5歳児を対象とした4つ目の「Picoナーサリ和田堀公園保育園」を開園することになり、
園内に設置された茶室で「幼児茶道教育」をスタートさせることになった。

子どもたち、親御さんたち、そして働く人にとっての「いい保育園」とは?

2018年4月から、都立和田堀公園の中に国家戦略特区として特別に設置される「Picoナーサリ和田堀公園」。 周囲を公園の芝生やワンパク広場の遊具、善福寺川の自然に囲まれ、子どもたちは思いっきり体を動かしたり、緑に囲まれて落ち着いた気持ちで過ごすことがきる

幼児教育の中で、60年以上の歴史を持つ「幼児茶道教育」とは、どのようなものなのだろうか?
「4歳児はお客様としての作法を学び、5歳児は実際にお茶をたてておもてなしをすることを学びます。指導役をつとめる師範は、開始当初から茶道教育にたずさわる92歳の細野恵美子先生。お茶やお菓子を味わうだけでなく、それがどんな風に作られて、どれだけたくさんの人がそのために関わっているのかということを学びます。また、四季折々の変化や日本の伝統文化に触れながら、人を思いやる心遣いや感謝の気持ちを身につけるんです。小学校教育の1授業単位に近い40分という長時間でも、子どもたちは茶室の雰囲気や先生の立ち振る舞いなどを敏感に察知して、静かで集中した時間を過ごす習慣をそこで覚えます」

ところで、美希さんは社会福祉法人風の森の統括として働くかたわら、保育士のための仕事紹介サービス「保育Willキャリア」を主宰したり、学童指導員を育成する「一般社団法人キッズコンサルタント協会」を立ち上げて代表理事をつとめるなど、園外での事業も精力的にこなしている。

そんなエネルギッシュな美希さんに、「いい保育園」とはどんな保育園なのか、聞いてみた。
「誰にとっての『いい保育園』なのかによって、答え方は変わってくると思います。何より子どもたちにとっては、自分の思いを受けとめてくれて、いろいろな体験を通じて成長できる保育園が『いい保育園』でしょう。今までやったことがなかったけど、やってみたら楽しかった。そんな発見のある保育園です。
次に、親御さんにとっての『いい保育園』は、そんな子どもの成長を一緒に歩んでくれる保育園でしょう。何でもやってくれる便利な保育園が『いい保育園』とは限りません。子育てのサポート役として、親御さんたちの成長の手助けができる保育園を目指していきたいと思っています。
最後に、働く人にとっての『いい保育園』とは、どんな保育園なのか? それは、保育園という職場を拠点に、多くの子と親の成長を手助けすることで、自分自身も輝き、仕事に誇りが持てる保育園ということになるでしょう。
社会福祉法人風の森の保育園事業は、まだ始まったばかりですが、学校法人野上学園が長い伝統を築いてきたように、今後も新たな歴史を作っていきたいと思います」

「保育者ケア」を導入したワケ

保育事業をはじめて4年目の2017年時点で、園全体での離職率も低水準で安定させることができるようになりました。ただ、定期的に行っているスタッフの面談で「保育者ケア」を導入したところ、誰にも言えずに心の中にしまい込んでいた不安や不満がある人がいることが発覚し、軽いショックを受けました(笑)。もちろん、これを改善するためのツールとして、「保育者ケア」はとても役にたっています。ですからこれは、スタッフの仕事ぶりを評価するためのものではなく、働き方を改善するためのコミュニケーションツールとして活用しています。

社会福祉法人 風の森 統括
野上美希(のがみ・みき)さん

東北大学工学部卒業後、日本総合研究所に勤務し、その後、株式会社マイナビに転職して人材紹介事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメントする。2009年、妊娠を機に同社を退職し、夫の実家である野上学園に転職。0歳~9歳までの子どもを受け入れる民間学童や複数の認可保育園を開設。また、キャリアカウンセラー資格を活かし、保育士のための仕事紹介サービス「保育Willキャリア」も主宰。学童指導員を育成する「一般社団法人キッズコンサルタント協会」を立ち上げて代表理事をつとめるなど、園外での事業も精力的にこなしている。

使ってます!キッズリー
キッズリーを導入する以前、電子モニターを園に設置し、その日の様子をデジカメで撮影した写真を掲示していたんですが、親御さんからとても喜ばれたんです。子どもたちの園での様子が一目で伝わりますからね。ですから、キッズリーの導入も最初から歓迎ムードで、「スマホで写真が見られるのがいい」と好評でした。また、「出欠・お迎え管理」のおかげでスタッフの業務効率もよくなりました。風邪が流行っている時期など、以前は電話が鳴りっぱなしでしたが、キッズリー導入後は朝夕の時間帯を有効に使えるようになりました。