vol.6

保育の仕事を
誇りにできる保育園を
作りたい

社会福祉法人 山ゆり会(まつやま保育園グループ)まつやま大宮保育園 園長 
松山圭一郎(まつやま・けいいちろう)さん

まったくの異業種から保育の世界に飛び込む

茨城県守谷市と龍ケ崎市に4つの保育園を展開している「まつやま保育園グループ」は1985年、創設者の松山美法さんが新築した自宅の一部を開放し、託児所をはじめたことにさかのぼる。美法さんの長男、圭一郎さんは当時、小学1年生だった。

「いつも子どもたちがまわりにいる、にぎやかな家でしたね。園児集めのチラシ配りを手伝って、お小遣いをもらったこともあります。認可保育園としてスタートしたのが1994年ですが、私はこの年、高校で部活をやるために全寮生活をスタートしていたので、そのころの様子はくわしく知らないんです。ただ、母はとてもエネルギッシュな人で、『子ども第一主義』という信念をもって園を運営し、山ゆり会の理事長の父がそれを支えている様子は遠目にも伝わっていました」

大学卒業後、圭一郎さんはマンション物件を中心に扱う不動産開発会社に就職した。20代後半は、高齢者向けの福祉施設を運営する社内ベンチャー会社の創業メンバーとして、事業を急成長させるなど、大活躍していた。

「まつやま保育園」(茨城県守谷市本町4210)
1994年に認可保育園としてスタート。「まつやま」の歴史はここからはじまった。

「そんなある日、帰省した折に母から相談を受けたんです。龍ケ崎市の公立保育園の民営化による移管先に山ゆり会が選ばれて、新しい園(まつやま中央保育園)を開園したけれども、うまくいかない。手伝ってくれないかと。不動産の仕事が面白くなっていた時期だったし、部下も抱えていたので頭を抱えました。だけど、悩んでいる時間はありませんでした。今の自分がいるのは両親のおかげであることは間違いないことですから、会社に丁寧に事情を話し、転職することを決意しました」

円満に退職することができたため、会社との関係はその後も続き、4つ目のまつやま松並保育園を開園したときは、会社とコラボレートして園舎を建てた。

保育園で見た、世間の常識とのギャップ

こうして、新設のまつやま中央保育園で副園長として働くことになった圭一郎さんだったが、そこで見たものは世の中の常識とかけ離れた、特殊な保育業界の慣習だった。
「仕事ですから、人様からお金をいただいているという意識を持つことは当たり前だと思っていましたが、そこではどちらかというと、決められたことを決められた通りにこなすことが目的化しているように見えました。また、園児をはじめ、移管前の保育園で働いていたスタッフをそのまま引き継いでのスタートだったので、山ゆり会の方針に変えようとすると、どんな些細なことでも大反発を受けてしまうんです。母が手を焼いていたのはコレかと思い当たりました」
さらにその3年後、東日本大震災後の建物耐震診断の結果、やむなく閉鎖となった公立保育所を民間で再生する話が持ち上がり、山ゆり会が移管先に選ばれた。前職の不動産業の知識を生かせるということで、この3つ目となる保育園は圭一郎さんが園舎の建設からマネジメント設計に至るまでの全権をまかされることになった。
「当たり前の建物を作っても意味がないと思い、知り合いの設計事務所の協力のもと、あれもやりたい、これもやりたいとアイデアを出してこだわり抜きました。その結果、母とも意見がすれ違って大ゲンカになることもありました。議論が白熱して、理事長の父に『お前たち、もっと仲良く話せないのか』なんて仲裁されたりして(笑)」

「まつやま中央保育園」(茨城県龍ケ崎市高砂6691-1)
2008年にスタートした第二保育園。現在の園舎は2011年にリニューアルしたもの。

まつやま大宮保育園は、何が何でも成功させたかった

圭一郎さんと美法さんの意見は、真っ向から対立していたわけではなく、「子どもを第一に考える」という理念は一緒だった。だが、それを実現する方法の選び方で小さなすれ違いが生じ、衝突してしまったのだ。

「ですから、そんな母に認めてもらうには、まつやま大宮保育園として開園した園を、なんとしてもうまく軌道に乗せねばなりませんでした。実はこの地域は、子どもの少ないところで、園児が定員数まで集まるかどうかは未知数だったのです」

まつやま大宮保育園の木造平屋建ての園舎は、「子どもたちの家庭の延長」というコンセプト通り、アットホームな雰囲気で、園庭にはかつての園児たちとともに成長してきた大きな樹木をそのままに残し、そのまわりに多種多様な植物で彩られた散策路が通った個性的な保育園である。圭一郎さんのこの”力作”は、開園から1年後にキッズデザイン賞、およびグッドデザイン賞を受賞した。両賞の受賞は、茨城県内の保育園・幼稚園では初という快挙である。

「うれしかったですね。でも、もっとうれしかったのは、多くの園児や保護者の方々が『ここに通いたい』と支持してくれたことです。まつやま大宮保育園は、はじめは定員45人でスタートしたんですが、2年後には定員60人になり、現在は近隣の6市町村という広い範囲から通っていただける保育園になりました」

「まつやま大宮保育園」(茨城県龍ケ崎市大徳町4921)
2013年に開園。自然豊かな園庭を持つ園舎は、キッズデザイン賞、およびグッドデザイン賞を受賞した。

今、力を入れているのは、保育士の「働き方改革」

まつやま保育園グループは、2017年度から「新体制」がスタートした。4つの保育園それぞれの園長を、圭一郎さんをはじめとする若い人材が務め、創設者と理事長は、園長たちのサポート役にまわってこれからの新しい歴史を作っていく。
「現在、力を入れているのが、保育士の”働き方改革”です。2016年から小規模保育事業として0~2歳児専門の『まつやま松並保育園』を守谷市に開園しましたが、土曜保育は同じ市内にある『まつやま保育園』と連携して行うことでスタッフの土曜出勤を減らしています。今後も新しい保育園を開園することがあるかもしれませんが、他の姉妹園と連携しやすい場所に作ることになるでしょう。足りないスタッフを補充し合ったりしてシフトにゆとりを持たせられるというメリットがありますし、『まつやま』のブランドを地域に根ざすことで近隣住民、園児、保護者、それからそこで働く人たちすべてに喜ばれる保育園になりたいのです」
また、圭一郎さんは子どもを持つ保育士に、自分の園に子どもを預けることを推奨している。朝、子どもと一緒に出勤し、夕方には一緒に帰宅することで、仕事と家庭の両立が容易になるからだ。

「自分の子どもが園にいると、保育士としてプロに徹することができないのではないか?その保育士の子どもにとっても、自分の母親が他の子の面倒をみているのを見てヤキモチを焼いたりするのではないか? そういう意見があるのも事実ですが、大人が仕事と家庭の違いを割りきって接すれば、子どもは決して嫌がりません。私自身、母が保育園で預かっている子どもたちと愛情深く接している姿を何度も見て育ちましたが、ヤキモチを焼くどころか、むしろ誇らしく思っていましたからね。もちろん、この仕組みはまだ完璧なものではなく、改善点が見つかればそれに対処していかねばなりません」

このように圭一郎さんが保育士たちの働き方改革に注力しているのは、保育士にとって「仕事と家庭の両立」がとても大変だと感じることが多いからだという。
「私には一つ、夢があるんです。それは、私が生きているうちに新卒で入社したスタッフの定年退職を一緒に祝うこと。そのとき、私は何歳になっているでしょうか。その実現に向かって進んでいけば、保育の仕事に誇りを持つことのロールモデルを示すことができるはずです。その日が来るのが楽しみですね」

「まつやま松並保育園」(茨城県守谷市松並青葉1-1-5)
2016年から小規模保育事業としてスタートした0~2歳児専門の保育園。

「保育者ケア」を導入したワケ

山ゆり会では年に4回、保育士との面談の場を設けているんですが、話を聞くのはその人の1つ上席の先輩で、その場に立ちあう園長か主任は、基本的に補佐役にまわります。保育の仕事だけでなく、後輩を指導するマネジメント力を身につけてもらうため、そのような方法をとっているのです。その際、「保育者ケア」は実に使いやすいツールです。過去のデータを比較しながら話をするうち、その人が不安に思っていること、悩んでいること、これからの課題などが自然に見えてくるのです。「じゃあ、どうしたら解決できるか、一緒に考えてみよう」と、建設的な議論ができて、マネジメントが苦手だった人の成長も早いです。はた目には普通に仕事をしている保育士も、実は密かに不安や不満を感じていた、という発見もあって、とても有意義なツールだと思います。

社会福祉法人 山ゆり会(まつやま保育園グループ)まつやま大宮保育園 園長 
松山圭一郎(まつやま・けいいちろう)さん

大学卒業後、マンション物件を中心に扱う不動産開発会社に就職。約10年間勤務した後、両親の経営する社会福祉法人山ゆり会に転職。まつやま中央保育園の副園長を経て、2013年にまつやま大宮保育園の開園とともに同園の園長に就任。2017年度からは法人本部長として、全園を統括している。

使ってます!キッズリー
紙の連絡帳に小さな文字で、一生懸命その日の報告を書く保育士の姿。美しいですよね。保護者の方からも、「大変ですね」と励まされることが多かったです。でも実際、大変な作業なんですよ。そこで、効率化を考えて導入することにしました。しかし、慎重に。まずは、まつやま大宮保育園で導入し、そこで保護者の方々や保育士たちに便利さを実感してもらって実績を作るところからはじめました。2018年度からようやく全園で導入できそうですが、「出欠・お迎え管理」、「連絡帳・フォト」など、どの機能を使うかは園の方針にそって決めるようにしています。時間をかけて段階的に導入したおかげでみなさんの理解が得られ、紙の連絡帳と併用していた園でも今ではkidslyがほぼ主流になっています。