vol.5

子どもにも保護者にも、
そしてスタッフにも
選ばれる保育園をつくる

(株)ハイフライヤーズ 保育事業部 部長 キートスチャイルドケア新田町 園長
 日向美奈子(ひゅうが・みなこ)さん

保育の現場で感じた疑問。それがはじまりだった

保育にたずさわる多くの人たちと同様、日向さんが幼稚園教諭になった理由は、「子どもが好きだから」。職場で子どもたちと接する日々は、とても充実していたし、仕事が大好きだった。ただ、5年間勤務した中で、1つだけ疑問に思ったことがあったという。

「1人担任の幼稚園勤務では、年度で区切れる勤務体制だったため、年度途中で産休を取りにくい環境にありました。そのため、多くの方が結婚を期に退職してしまうのです。ただ、私は仕事を続けたかったので、結婚後は系列の保育園に異動を願い出て、保育士として勤務している間に子どもを産みました。その職場で産休をとったのは、私が2人目とのことでした」

こうして日向さんは、その年の7月に無事、長女を出産。翌年の7月に保育士として職場復帰をするため、長女を預ける保育園探しにとりかかった。ところが、ここでも大きな壁が目の前に立ちはだかったのである。

「受け入れ先の保育園が、なかなか見つからなかったんです。市役所に何度足を運んでも、色よい返事はもらえず、不安な毎日でした。結局、仕事に復帰する日の直前になって預かり先の保育園が見つかり、ホッとしましたが、保育園に子どもを預ける親の苦労を自ら経験したことは、強い印象として心に残りました。もし、このときの経験がなかったら、その数年後、自分で保育園を作ろうと発想することはなかったかもしれません」

「キートスチャイルドケアみつわ台」の北欧カフェをイメージしたオシャレな外観。天然木を多用した室内には大きな窓を配置し、毎日ワクワクしながら通ってもらえる保育園を目指している。

保育士から経営者へ。でも、最初は戸惑いばかりだった

「当初、『自分たちの手で保育園を作る』なんて、途方もないことのように思えました。保育園は私にとって、子どもの預け先であり、職場でもあり、とても身近な存在でしたが、決して『自分たちで作る』というものではありませんでしたから。でも、身をもって子育てを経験するうち、『自分の理想の園を作りたい』という気持ちは少しずつ大きくなり、やがて無視できないものになっていきました」
その第一歩は2010年、認可外のフランチャイズ形式の小規模な保育園を千葉県勝田台市に開設するところから始まった。

「私が目指したのは、『保護者が子育てや仕事、生活を毎日楽しめる保育園』。親としては新米でしたが、自分の子どもを保育園に預けるときの不安や苦労を経験したこともあって、保護者の気持ちに寄り添えるような保育園にしたかった。ただ、保育園の経営者として私はまだまだ未熟で、学ばねばいけないことがたくさんありました」
実際、最初からすべてがうまくいったわけではない。最初の保育園は認可外だったため、年度末にかけて定員がいっぱいになるものの、新年度4月のタイミングで認可園に入れた子どもたちがごっそり抜けてしまい、経営はかなり苦しかった。そんな状態が2~3年続いた。


新入社員研修、4園合同ミーティングの様子。ビジネスマナーや社会人の基本スキルの座学研修の他、保育実践研修も合わせて行っている。

保育は福祉事業であると同時にサービス事業である

自分で保育園を作るからには、これまでの仕事の延長線で考えるのではなく、まったく新しい保育園にしたいと考えていたものの、従来のやり方にしばられていた面もあったと日向さんはふり返る。
「一度、こんなことがありました。『今日1日でいいから子どもを預かってほしい』というお母さんが園に見えたんです。予約なしでお子さんを預かるなんて、通常の福祉のルールではあり得ないことですから、お断りしようとしたんですが、思い直してお預かりすることにしました。園児がいなければ経営が成り立たないということを、身に沁みて感じていましたから」
この経験から日向さんは、保育園は福祉事業であると同時に、保護者に選ばれるサービス事業でなければならないということを真剣に考え始めるようになった。これまで保育関係の本などしか読んだことがなかったが、経営書やビジネス書、日々のニュースなどに目を通し、世の中の動きに注目するようになった。
「ようやく経営が安定するようになったのは3年目のことで、2015年には自治体から認可を取得して『認可保育園キートスチャイルドケア』として再スタートを切ることができました。それでも、『保育は福祉事業であると同時にサービス事業である』という考え方は基本的に変わりません」

職員同士の仲が良く、風通しの良い社風がキートスチャイルドケアの自慢。年齢や経験に関係なく仕事に向かう姿勢を評価する風土であることが良い影響を与えている。

「保育のプロ」を目指す意欲をバックアップ

「キートスチャイルドケア」はその後、快進撃を続けて千葉市に3園、成田市に1園を展開。2018年4月には千葉市に3園を新規開設予定だという。園の規模は、定員19名のところから定員70名のところまで、それぞれ違うが、「『人とのつながり』を大切に、『また明日も来たい!』と思う保育園」という企業理念は一貫している。
「どの園でも、毎年決まった時期に行う年間の行事予定を立てていないのは、子どもたちがその年、その季節によって違うからです。保護者のニーズはもちろんですが、何よりも目の前の子どもたちのやりたいこと、体験してほしいことで行事を考えています」
従って、園内でイベントを行うには、既成概念にとらわれることなく、今、子どもたちに体験してほしいこと、かつ特別ではない毎日の保育の延長線上にあるイベントを立案し、周りのスタッフや保護者と一緒に作り上げる企画力が全スタッフに求められる。そのことを重荷に感じるのではなく、逆にやりがいと捉えてくれるスタッフを育てるのは容易なことではないだろう。
「もちろん、簡単なことではありませんが、決して不可能ではありません。たとえば、保育士の新卒採用に力を入れているのはその方策の一つで、私たちのやり方をゼロから学んでいただくことで、プロの保育士を目指す風土づくりを心掛けています」

園で働く以前の保育士を対象に、ビジネスマナー研修を行っているのも「キートスチャイルドケア」の特徴だが、これは「一般企業で働くお父さんお母さんの境遇を知り、その気持ちに寄り添う」ためのもの。

企画、立案から当日の運営まで、すべて職員が行った夏祭りの様子。19人定員の園だが、保護者も含めて参加者は100名近くと大盛況だった。

また、園の運営や新規園の開発にたずさわりたい、マネジメント職を目指したい、といった目的をバックアップする給与体系や研修支援も整え、スタッフ一人ひとりの意識の向上をうながすことも重要な取り組みだという。
「子どもたちに『明日もこの園に行きたい』と思ってもらえること、保護者の方々に『自分の子どもをこの園にあずけたい』と思ってもらえること、そして、スタッフたちに『この園で働きたい』と思ってもらえること、すなわち保育に関わるすべての人に『選ばれる』保育園が私たちの理想です。今後も既成概念にとらわれず、さまざまな試みに挑戦していきたいですね」

(株)ハイフライヤーズ 保育事業部 部長 キートスチャイルドケア新田町 園長
 日向美奈子(ひゅうが・みなこ)さん

埼玉県与野市出身。幼稚園教諭として5年勤務した後、結婚、出産を機に保育士に。2010年から保育園事業に参入。2015年には国の認可を取得して「キートスチャイルドケア」を開園。千葉市と成田市に4つの保育園を運営している。2018年4月には千葉市にて3園新規開設予定。

使ってます!キッズリー
子どもたちにとって、お迎えにきたお父さんお母さんと顔を合わせるときは、何よりうれしい瞬間です。ところが、園児たちの様子を伝えるツールが連絡帳しかないということになると、保護者の方々が連絡帳を読むのに夢中で子どもたちが置いてけぼりに……という光景が珍しくありませんでした。子どもたちのことをもっと見て欲しい。笑顔でお迎えをしてほしいと思ったことがKidslyを導入した動機です。写真やコメントなどを通じて園での様子をあらかじめ共有しているので、「今日のプール、楽しそうだったね」という会話からお迎えを始められる。おかげでどこの園でも夕方は、とても賑やかですよ。