vol.4

保育事業は
無限の可能性を
秘めています

社会福祉法人 檸檬会
理事長 前田 効多郎(まえだ こうたろう)さん

保育事業に出会った、意外なきっかけ

アメリカの大学で経営学を学び、その後、ヨーロッパで2年間の放浪生活をして帰国した前田さんにとって、進むべきは起業家の道だった。とはいえ、はじめから保育事業を手掛けたわけではなく、ここにたどりつくまでには紆余曲折があった。
まず最初に大学で知り合った仲間とはじめた飲食事業は、すべり出しは順調だったものの、経営方針のすれちがいから2年ほどで空中分解してしまった。「僕のマネジメント不足でした」と本人も反省しているように、前田さんの起業は挫折からはじまったのだ。

 

東京都足立区にある「レイモンド花畑保育園」。檸檬会の保育園を多く手掛けてきた設計事務所による建物は、地域に開かれた保育園を印象づけるために外壁に大きな窓を配置するなどの工夫がされている

東京都足立区にある「レイモンド花畑保育園」。檸檬会の保育園を多く手掛けてきた設計事務所による建物は、地域に開かれた保育園を印象づけるために外壁に大きな窓を配置するなどの工夫がされている

心機一転、故郷の和歌山県で開業したのが、訪問介護施設だ。介護保険制度が施行して間もないころの波に乗り、3年後の2003年には事業所5か所、従業員100人前後の規模に広がった。そのとき、「子どもを預ける場所がなくて、長く働けない」という相談を受け、福利厚生のために託児所を設置したのがきっかけとなった。
「当時はまだ待機児童の問題が顕在化していないころでしたが、社会構造が変化して、共働き夫婦が多くなっていくのは明らかでした。そこで、自分でクルマを運転してリサーチしてみることにしたんです。地元の関西だけでなく、中部や関東にも足を伸ばしていろいろな自治体を訪ね歩きました。すると、ほとんどの地区が切羽詰まった状況だということがわかったんです」
すでに認可保育園の設置制限が撤廃になり、株式会社でも認可を取れるようになっていたが、参入する事業者はほとんどと言っていいほどいなかった。前田さんはそこに、大きな可能性を感じたという。

 

 

多くの人を巻き込み、事業は拡大していった

経営していた訪問介護施設の託児所を定員30名の認可保育園にし、社会福祉法人・檸檬会を設立したのが2007年のこと。その後、9年間で来年度の開園準備中の園を含めれば、30を超える園を経営する保育グループに拡大した。

 

レイモンド花畑保育園では所在地の「花畑」という地名に寄せて、26人のクリエイターが40センチの箱の中に花畑を表現する作品を展示する「又花の咲く如く~40センチの角の花畑展」が開催中だった。

レイモンド花畑保育園では所在地の「花畑」という地名に寄せて、26人のクリエイターが40センチの箱の中に花畑を表現する作品を展示する「又花の咲く如く~40センチの角の花畑展」が開催中だった。

「歴史の浅い保育園ですから、それなりの規模が必要だと考えました。理論上、10の保育園があれば、1年で10年分のノウハウが溜まることになりますよね。もちろん、僕一人の能力は知れたものですから、チームを組んで取り組むことにしました」
最初に取りかかったのが、保育園の理念を形にすること。これをおろそかにすると、園ごとに方針がバラバラになり、いくら拡大してもスケールメリットが得られないからだ。
前田さんを筆頭に、のちに統括園長・事務局長になった青木一永さんを加えた6人のプロジェクトチームが議論を重ね、「3つの心」という理念ができあがっていった。すなわち、人・命を愛する心、自然と共に生きる心、想像(創造)する心の3つを総合的に育む保育園という、檸檬会のシンボルとも言える基本理念である。

 

チャイルド・コミュニケーション・デザイン・プロジェクト(CCD)ディレクターの平井亙さん。アートを通じて子どもと親、社会をつなげる試みを行っている。

チャイルド・コミュニケーション・デザイン・プロジェクト(CCD)ディレクターの平井亙さん。アートを通じて子どもと親、社会をつなげる試みを行っている。

この6人のうちの一人、平井亙さんは外部のデザイナーとして保育園のブランディングを依頼されたのをきっかけに檸檬会の運営に参加することになったという。檸檬会の「LEMON」に「I(愛)」と「D(ドリーム)」の字を加え、「LEIMOND(レイモンド)」というブランド名の発案者だ。
「当時、前田さんは和歌山県で定員30名の保育園を運営する経営者でしたから、最初に話を聞いたときはそんな大きな夢が本当に実現するのだろうかと半信半疑でした。ところが気がついてみると、指示されたり、頼まれたわけでもないのにアイデアを出したり、自ら動いている自分に気づきました。もともと前田さんの夢には賛同していましたから、巻き込まれてみるのも面白いかなと思ったんです」という平井さんは現在、デザインやアートの視点で保育をサポートするチャイルド・コミュニケーション・デザイン・プロジェクト(CCD)のディレクターとして、さまざまな企画を手掛けている。

 

規模を拡大するメリットとは?

6人のブレーンのみならず、各保育園の園長職にもさまざまな人材が集まってきた。
「僕が園長に求めていたのは、マネジメント力です。人を動かし、組織を運営していくことのできる能力です。ですから、航空業や金融業、外資系企業などの異業種で働いてきた方も積極的に採用しました。みなさんに共通しているのは、収入や待遇ではなく、やりがいを求めて保育の仕事を志しているということで、僕自身、事業の改善案を提案されることも多く、逆に教えられることも多いんです」と前田さん。
現在、保育の現場で働くスタッフは約850人で、来年度には1000人に及ぶ予定だとか。保育未経験の異業種からの参入組も少なくないが、これだけの規模があるだけに研修先は豊富にあり、保育の経験者から基本的なことを教わったり、保育の様子を実地に学ぶことができるのだ。

 

中央に小山とトンネルのある園庭。「運動会がやりにくいのでは?」と聞くと、「年に1回の運動会のためにトラックにするより、日々の生活に合わせた会にするほうがいいですよね」との答えが返ってきた。

中央に小山とトンネルのある園庭。「運動会がやりにくいのでは?」と聞くと、「年に1回の運動会のためにトラックにするより、日々の生活に合わせた会にするほうがいいですよね」との答えが返ってきた。

乳児担当制保育のやり方や、日々の運営で気づいたことなどのノウハウも、クラウド化してネットで共有しているのもレイモンド保育園の特徴だ。
「例えば節分というと、鬼の扮装をした保育士にマメまきをするのが定番ですが、今年は一つの園が面白い取り組みをしたんです。園の廊下に鬼のあしあとのドロを塗って、あたかも鬼が侵入してきたかのように演出したんです。その日は一日中、園の中にいるらしい鬼を探したり、眼に見えない鬼を想像しながら扮装を作ってみたりして楽しんだということです。こうした情報はすべての園で共有され、面白いものは他の園でも採用されていきます。また、災害や事故などの対応に生かすためのヒヤリハット事例も多く寄せられ、活用されています」

 

 

国内のみならず、世界にも展開していきたい

来年度からは裏千家の協力により、いくつかの園で茶道教室が実施される。
これは、愛知県尾張旭市のレイモンド庄中保育園が4年前からはじめたもので、日本の伝統文化を学び、今後のグローバル化する社会で生きる力を養ってほしいとの意図から生まれたのだという。

 

レイモンド庄中保育園で行われた茶道教室の様子。日本の伝統文化を学ぶことで、グローバル化した社会に生き抜く力を得てほしいとの願いからはじめられた。

レイモンド庄中保育園で行われた茶道教室の様子。日本の伝統文化を学ぶことで、グローバル化した社会に生き抜く力を得てほしいとの願いからはじめられた。

発案者はCCDプロジェクトのディレクターの平井さんだ。
「以前からお仕事でお付き合いのあった裏千家に協力を依頼したところ、快く引き受けてくださいました。茶道人口の減少にともない、子どもたちに茶道を学ぶきっかけづくりを模索していたところだったようで、全国に拠点のあるレイモンド保育園の規模にメリットを感じていただいたようです」(平井さん)。
そんなレイモンド保育園は今後、どのような方向に前進していくのだろうか? 最後に理事長の前田さんに聞いた。

 

レイモンド保育園の妖精、レイモンドちゃん。子どもたちのマスコットだ。

レイモンド保育園の妖精、レイモンドちゃん。子どもたちのマスコットだ。

「和歌山県の由良町というところに、私たちが委託運営をしている『ゆらこども園』という町立保育園があります。由良町には以前、保育園が2つ、幼稚園が1つありましたが、人口減少にともなって一昨年からこの町立保育園に統合されたのです。子どもの預け先の選択肢は、この場所1つしかありませんから、経営努力や保育の質を高める新しい試みなどは行われにくくなる可能性があります。今後、こうした保育園は全国にたくさん増えていくことでしょうが、そのとき、レイモンド保育園のノウハウを生かすことができるのではないかと思っています。また、国内だけでなく、海外にもノウハウを輸出し、質の高い保育を提供できる人材のネットワークを世界に広げていきたいと考えています」
 時代の先を行く、レイモンド保育園の今後の活躍が楽しみだ。

 

社会福祉法人 檸檬会
理事長 前田 効多郎(まえだ こうたろう)さん

1971年生まれ。和歌山県出身。アメリカの大学で経営学を学び、帰国後、さまざまな経験を積んだ後に保育事業に参入。2007年に社会福祉法人・檸檬会を設立。現在、9年間で来年度の開園準備中の園を含めれば、30を超える園を経営する。また、英語中心に教育するインターナショナルスクールを滋賀県大津市など5か所に展開している。

使ってます!キッズリー
これまで保育園から保護者の方々への連絡はメールを使っているのですが、多くの方がLINEなどのスマホアプリを使っていて、連絡が行き届かないという報告がたびたびありました。そこで、各園の責任者宛てにアンケートをとったところ、興味を示した園が多かったので今後、導入を検討しています。緊急時の連絡だけでなく、日々の忘れ物防止の連絡などにも活用できるのではないかと期待しています。保育士の事務手続きを軽減し、保育に集中できる環境になればうれしいですね。