vol.3

子どもたちの
「遊び学ぶ力」を
伸ばしたい

認定こども園さくら
園長 堀 昌浩(ほり まさひろ)さん

「こども園さくら」と「さくら第2保育園」ができるまで

大学在学中、こども園さくらの初代園長をつとめた祖母が亡くなったことが堀昌浩さんの人生を変えた。すでに就職先も決まっていたが、2代目園長に就任した母を助けるため、故郷の栃木市に帰ることにしたのだ。
それが、今から20年ほど前のこと。「少子高齢化」や「待機児童」といった社会問題は今ほど顕在化しておらず、保育の現場に就いたばかりの堀さんも想像だにしていなかったという。とはいえ、当時は男女雇用機会均等法の改正を受けて働く女性が増え始めたころにあたり、問題の萌芽が少しずつ表れてきた。

 

西に永野川、東に錦着山公園があり、自然豊かな土地に立つこども園さくら。2016年に開園39周年をむかえる。

西に永野川、東に錦着山公園があり、自然豊かな土地に立つこども園さくら。2016年に開園39周年をむかえる。

「そのころ、こども園さくらは定員90名の小さな保育園でしたが、『増員してほしい』という声が多くなっていったんです。ところが、行政に申請しても認可を受けるのがむずかしく、増員は容易ではありませんでした。そこで、発想を変えて、もうひとつ保育園を新設することにしたんです。それが、0~2歳児を対象にしたさくら第2保育園です」
さくら第2保育園は平成8年に開園し、現在、50名の乳児たちを受け入れている。5年前からはクラス制を改め、1人の保育士が3人の乳児を受け持つ「育児担当制」を導入。乳児に適したきめ細かい保育を行っている。また、3歳児からのこども園さくらも規模を拡大し、300名の児童が通う保育園となった。

 

 

子どもの遊び学ぶ力を伸ばす「ラーニング・ジャーニー」プログラム

やがて堀さんは、保育園に通う期間が子どもたちにとって、人生の基礎を形成する大事な期間であることを痛感する一方で、問題意識も感じ始めていた。
「子どもは生まれながら学ぶ力を持っていて、遊びの楽しさの中に学びがあることに気づいています。でも、保育者が作ったカリキュラムに沿って子どもたちを行動させる既存の一斉保育で、この『遊び学ぶ力』を伸ばすことができるかということに疑問を感じたんです。もちろん、規律や礼儀などはとても重要なことですから、一斉保育を否定するわけではありません。でも、それだけでは充分でないことは明らかでした」
そして、さまざまな園長に話を聞いたり、社会起業家の勉強会などに参加して試行錯誤を重ねる中、園長仲間の坂本喜一郎さん、竹内勝哉さんとの出会いをきっかけに生まれたのが「ラーニング・ジャーニー」というプログラムだった。
このプログラムの大きな特徴は、あらかじめカリキュラムが決められているのではなく、子どもの日々のつぶやきを出発点にして無限に行動が広がっていくことにある。

 

「例えば今年の2月、年中クラス(現年長)の一人の園児が『霜柱を作りたい』とつぶやいたんです。さっそく、電気屋さんに冷凍庫を借りに行って、水を含んだ土を凍らせて霜柱を作る実験を行いました。無事、霜柱はできたんですが、そのとき『外にできる霜柱には、霜柱の種が入っている』と指摘した子がいて、その後の給食に出たトマトの種を取り出して観察することになりました。すると、子どもたちの興味は野菜を作ることに移っていって、ナスやトマトなどの夏野菜を園で栽培することになったんです」

 

給食のサラダに入っていたトマトから取り出した種

給食のサラダに入っていたトマトから取り出した種

スーパーのチラシを見ながら野菜の値段を調べる子どもたち

スーパーのチラシを見ながら野菜の値段を調べる子どもたち

野菜の苗を購入。園庭に植えて、収穫の日を待つ

野菜の苗を購入。園庭に植えて、収穫の日を待つ

 

ピザの作り方を教わった後は、お泊まり保育で生地の24時間発酵を試したとか

ピザの作り方を教わった後は、お泊まり保育で生地の24時間発酵を試したとか

霜柱を作りたいというつぶやきから始まったこのプロジェクトはその後、収穫した野菜を使ってイタリア料理を作るところまで発展していくのだが、クラス全員で行うのではなく、子どもの個別の興味に従って自然にグループ分けされていくという。例えば、近所のイタリア料理店に行った子どもたちの中でも料理のレシピを学ぶ子のグループ、店のインテリアに興味を持っていろいろな飾り付けを作るグループ、布地を買いに行って店員のユニフォームを試作したりするグループが派生していった。

 

 

子どものつぶやきが地域や企業を巻き込んで広がる

興味深いのは、プロジェクトが進展していくにつれ、冷凍庫を貸し出してくれた電気店や料理法を教えてくれたイタリア料理店など、企業や地域の人々が自然にまきこまれる形で参加していること。あるときは、食品メーカーが提供してくれた香辛料を調合してオリジナルのカレーを作ったこともある。また、他の園のプロジェクトでは、服飾デザイナーのもとを訪ねてパリコレクションに出展する一点もののドレスを見に行ったりしたこともあったという。

 

イタリア料理のプロジェクトが進行中の時期、保育士たちはそれとなくプロジェクトのゴールをイメージするオブジェを制作して園内に飾っていた

イタリア料理のプロジェクトが進行中の時期、保育士たちはそれとなくプロジェクトのゴールをイメージするオブジェを制作して園内に飾っていた

「イタリア料理のプロジェクトに参加した園児のお母さんの一人が、『子どもに教わることもあるんですね』と驚いていました。その園児は料理店で教わったレシピをメモしていて、お母さんが作ったパスタに材料が欠けていることを指摘したんだそうです。その他、企業の人たちの中にも、『好き』とか『嫌い』を素直に表現する子どもの声を熱心に聞こうとしている人が多くなっています」
と語る堀さんだが、ラーニング・ジャーニーがうまく機能するまでには、さまざまな失敗も経験してきたという。

 

保育士たちはその日の業務の中で印象に残った「子どものつぶやき」を付箋にメモし、全員で共有している

保育士たちはその日の業務の中で印象に残った「子どものつぶやき」を付箋にメモし、全員で共有している

「プロジェクトの中で保育士たちは、子どものつぶやきを形にするためのサポート役に過ぎません。ところが、つい大人目線になって先に答えをアドバイスしてしまい、プロジェクトがそこで終わってしまうこともこれまで何度かありました。そこで、1日の終わりに行われるミーティングや1人1台支給されているiPod touchの掲示板ソフトなどで情報を共有し、子どもにどう接すればいいかを互いに教え合う環境を作りました。とはいえ、今はまだ手探りの段階で、1年も続くプロジェクトもあれば、数週間で終わってしまうプロジェクトもあります。もっとも、長く続けばいいというものでもないので、試行錯誤はこれからも続いていくでしょう」

 

 

子どもたちが将来の夢を見つけることが真の目的

現在、年少クラスでは、「雲にさわりたい」というつぶやきを実験するため、さまざまな山登りをするプロジェクトが進行中だという。
「先日、近くの山に行って『雲には触れない』という結論に達したようですが、『もっと高い山なら触れるかも』と計画を練っているようです。今後、富士山やエベレストを目指すことになるのか、それとも別の方向に興味が向いて、まったく別の展開になるのか、楽しみに見ています」
プロジェクトの話をする堀さんの口調は、実に楽しげだ。
「ラーニング・ジャーニーが目指しているのは、子どもたちの『遊び学ぶ力』を伸ばすことですが、真の目的は自分がやりたいこと、将来なりたいものを見つけて、それに向かって歩みを進めてもらうことです。保護者や保育士はもちろん、地域社会や企業にいる大人たちとの出会いを通じて子どもたちが生きる喜びを感じ、夢をかなえる旅を始めてほしい。その手助けができるならば、これ以上にうれしいことはありません」

認定こども園さくら
園長 堀 昌浩(ほり まさひろ)さん

1970年生まれ。栃木県出身。大学卒業後、母が園長をつとめるこども園さくらで働き始める。その後、さくら第2保育園の新設に携わり、園長として「育児担当制」を導入。さらには、子どもたちの遊び学ぶ力を伸ばす「ラーニング・ジャーニー」プログラムを開始する。また、地域の児童館として乳児から大学生、さまざまな団体が利用している屋内施設「児童館さくら3Jホール」を置くなど、ユニークな取り組みに挑戦している。

使ってます!キッズリー
先日、2016年12月からの導入を目指して、保護者の方々のための説明会を行いました。自分のスマートフォンにアプリをダウンロードしてもらい、使い方を説明したんですが、おおむね好評でした。こういうツールを使うと、人と人との間のコミュニケーションが希薄になってしまうのではと不安に感じる人もいるかと思ったんですが、そういう声はほとんどありませんでした。むしろ、kidslyがお互いのコミュニケーションを深めるきっかけになるものだと前向きに受けとめてもらったような気がします。朝の欠席の連絡で電話回線がパンクすることもこれまで何度かありましたが、これで解消してくれるとうれしいですね。